前橋地方裁判所 昭和34年(ワ)266号 判決 1961年4月27日
原告 浜田福恵
被告 国
訴訟代理人 斉藤二郎 外一名
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実
第一当事者双方の申立
一 原告訴訟代理人は、「被告は原告に対し金六九、八〇〇円を支払え。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決および仮執行の宣言を求めた。
二 被告指定代理人は、主文同旨の判決を求めた。
第二請求原因
一 原告は、昭和三三年一二月二五日、債権者森川勝雄債務者藤田万代間の競売において、別紙目録記載の物件(以下本件物件と略称。)を、他の物件二点とともに三二、二〇〇円で競落してそれらの所有権を取得し、同日これを藤田万代に賃料一ケ月二、〇〇〇円、毎月末払、期間は同日から五年間の約定で賃貸した。
二 ところが、昭和三四年三月三一日前橋地方裁判所執行吏樋口三郎は、訴外有限会社友信金融(以下友信金融と略称。)の執行委任を受け、友信金融の藤田万代に対する前橋地方法務局所属公証人中島美樹作成昭和三三年第一九〇五号金銭消費貸借契約公正証書(以下本件公正証書と略称。)の執行力ある正本にもとづき、本件物件外一点を差押え、昭和三四年四月九日伊勢崎市大字下植木九二番地の右藤田の住所において、右物件を競売に付したところ、訴外石原定雄がこれを競落してその引渡を受け、よつて公売処分によつて所有権を取得したので、原告は本件物件の所有権を失つた。
三 ところで、前項記載の競売は、つぎの理由により、強制執行の濫用であつて、違法なることが明白である。
(一) 友信金融は、昭和三四年二月九日、前記樋口執行更に執行委任して、本件公正証言にもとづき、前記藤田の住所において、本件物件等を差押えた。そして、競売期日は、同月一九日午前八時と指定され告知された。
(二) そこで、原告は、前橋地方裁判所に対し、友信金融を被告として、強制執行の目的物に対する第三者異議の訴(同裁判所昭和三四年(ワ)第三七号)を提起するとともに、同物件等に対する強制執行停止決定申請(同裁判所昭和三四年(モ)第四六号)をなし、同月一八日同裁判所によつて強制執行停止決定がなされたところ、友信金融は、同月二六日本件物件等に対する差押を解除した。したがつて、原告も同日右第三者異議の訴を取下げた。
(三) しかるに、友信金融は、同年三月三一日にいたり、前回と同じ債務名義たる本件公正証書にもとづき、前回と同じ樋口執行吏に執行委任して、前回と同じ本件物件等を差押え、同年四月九日その競売が行なわれた経過は第二、二記載のとおりである。
(四) およそ、強制執行停止決定の効力を回避するため、債権者がその差押を解除したうえ、さらに前記(三)のような強制執行をすることは、強制執行を濫用するものであつて違法であるから、執行吏は、このように違法な執行を受任し追行すべきではない。
四 右のとおり、樋口執行吏は、その職務を行うについて、その違法な執行委任たることを知りながら、あえて違法な強制執行をなし、よつて、原告に本件物件の所有権を喪失させ、その価額六九、八〇〇円相当の損害を負わせたから、被告国は、国家賠償法にもとづき、原告に対し右損害を賠償すべき義務がある。そこで、原告は、被告国に対し、右損害額の支払を求めるため本訴に及ぶ。
第三請求原因に対する答弁
一(一) 請求原因一項中、原告主張の日に、本件物件につき、原告名義で競落がなされたことは認めるが、後記のとおり、原告はその所有者ではない。また、原告が藤田万代に本件物件を賃貸したとの点は否認する。
(二) 同二項中、原告が本件物件の所有権を失つたとの点は否認し、他はすべてこれを認める。
(三) 同三項中、(一)ないし(三)はすべて認め、その冒頭事実および(四)は否認する。
(四) 同四項は否認する。
二 藤田万代は、その債権者から本件物件等の差押を受け、昭和三三年一二月二五日競売されることになつた際、藤田自身の名義で競落するときは、その後さらに他の債権者から差押えられることをおそれ、原告の名義をかりて競落したものにすぎず、したがつて、本件物件は、実は藤田万代の所有に属するものであるから、原告に所有権があることを前提とする本訴請求は失当である。
三 かりに、本件物件が原告の所有であるとしても、樋口執行吏の行つた強制執行に違法のかどはない。およそ、第三者異議の訴は、具体的な執行処分の除却を目的とするにとどまるものである。債権者が、再度同一物に対し執行することは、たとえ同一債務名義にもとづくものであつても、別個な執行処分である。また、第三者異議の訴に附随してなされる執行停止の決定は、一時的なかりの処分にすぎず、実体的確定力もないから、その決定にしてすでに効力を失い、その目的物にして依然として債務者の占有に属している以上、債権者としてはさらに再度の執行をなしえないものではない。したがつて、再度の強制執行がなされた場合には、第三者は、改めて異議の訴を提起したうえ執行停止決定を求めるべきであり、再度の執行がただちに執行の濫用とはいえない。そこで、執行吏としてかかる執行を受任し、追行することはなんら違法でない。かりに、債権者が、執行停止の効力を回避する目的で執行処分を解除し、さらに、同一債務名義にもとづき再度執行委任をして、同一物件を差押え競売することが、一般的には強制執行の濫用であるとしても、それは、本案たる第三者異議の訴が維持されていて、異議の当否につき本案判決が予期されている場合に限られるのである。したがつて、本件のように、友信金融が最初の差押を解除した後、原告において本案たる第三者異議の訴を取下げ、しかも、友信金融としては、その差押解除後、本件物件が原告の所有に属せず藤田の所有たることを確信して再度の執行に及んだものであり、強制執行停止決定の効力回避の目的で最初の差押を解除したものでなないから、強制執行の濫用には当らず、樋口執行吏の執行は違法ではない。
四 かりに、右執行が違法であるとしても、本件物件が原告の所有に属するものとすれば、競売されたというだけではただちに原告においてその所有権を失うことはないし、また該物件は、その競売にかかわらず全部藤田方に現存し、散いつしたわけでもないから、原告の主張する損害は生じていない。
第四証拠関係<省略>
理由
まず、本件物件が原告の所有に属するものかどうか判断する。
原告主張の競売事件において、その主張の日に、本件物件が原告の名で競落されていることは、当事者間に争いがない。
ところで、被告は、右競落は訴外藤田万代がたんに原告の名をかりてこれをなしたにすぎないものであつて本件物件の所有権は原告には属せず藤田に属する旨争うので調べるに、証人藤田万代の証言(第一回)により真正に成立したことが認められる乙第一号証、成立に争いのない同第二号証、証人藤田ユキ、同藤田万代(第一回、第二回)、同金本東根、同石原定雄の各証言および証人高坂浪次の証言の一部をあわせ考えると、藤田万代は、その債権者森川勝雄から本件物件等の差押を受け、これらを昭和三三年一二月二五日競売されることになつた際、右物件を競落するため、原告を連帯保証人として質屋訴外富久屋からその資金を借り受けたが、藤田自身の名で競落するときは、他の債権者から再び差押を受けるおそれがあつたので、その頃親密にしていた原告の名をかりて右資金で本件物件等を競落したうえ、これを原告から賃借した旨よそおつた(甲第二号証)ことが認められ、右認定の趣旨、に反する証人高坂浪次の証言および原告本人尋問の結果は前記各証拠にてらして信用できない。さすれば、本件物件は訴外藤田万代の所有に属するものであつて、原告の所有に属するものでないと認める。
よつて、原告の請求は、その余の点について判断をするまでもなく失当であるからこれを棄却すべく、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用し、主文のとおり判決する。
(裁判官 水野正男 千種秀夫 簑原茂広)